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2010.09.29

海外ドラマ、初回の翻訳は難しい

CS放送が始まって以来、質の高い海外ドラマが次々と日本に上陸している。実は海外ドラマの翻訳では、初回(第1話)の翻訳が最も難しい。それはなぜか。この夏に新しくWOWOWで放送が始まった『救命医ハンク』を例にみてみよう。

●言葉遣い/トーン:
第1話の翻訳で難しいのは、何と言っても登場人物の言葉遣いを決めること。20100929_01_3 オリジナルの面白さを伝えるためにはどんな口調が最適か? 原音のニュアンス・各キャラクターの話し 方・性格・仕草・立場などから「常体/敬体」「重厚/軽薄」など基本の言葉遣いを決める。十数話に及ぶシリーズの軸とも言える作業のため、翻訳者は大いに悩む。
そのときポイントとなるのが一人称の処理だ。英語の“I”で表される一人称には「僕/オレ/私/あたし」など様々な日本語が考えられる。
例えば『救命医ハンク』の主人公ハンク・ローソンは、職場では几帳面かつ大胆な医師として一目置かれている。でもプライベートでは正反対。キッチンを汚し、洗濯物を床に脱ぎ捨てるほどだらしがない。一方で弟エヴァンに対して常に兄らしく振る舞おうとする一面がある。このため吹替版のハンクは基本的に自分を「僕」と呼び、弟エヴァンに対しては「オレ」を使っている。字幕版では字数や文字面の分かりやすさから「僕」に統一されている。

●初回ならではの派手な演出:
アメリカの新作ドラマではシーズン序盤の出来によって、放送エピソード数やシーズン続投20100929_04_15 などが決まる。このため初回では特に派手な演出が用意されていることがあり、翻訳者にとっては踏ん張りどころとなる。
『救命医ハンク』には初回のみ、ERのシーンが登場する。優秀なERドクターのハンクが急患を立て続けに処置する見せ場で、医学の専門用語が飛び交う緊迫したシーンだ。このようなシーンでは専門的な内容に加え、医師独特の略語が多いため、内容の把握だけで数時間が経ってしまうこともある。

●たいせつな訳語:
シリーズ全体に関わる言葉の訳語を決めるのも、初回翻訳での大切な仕事。
『救命医ハンク』には"concierge doctor"という単語が繰り返し登場する。これはセレブ相手の個人医を指す、ドラマでも特に重要な言葉。尺がある吹替版では「コンシェルジュ・ドクター」、字数制限の厳しい字幕版では「専属医」と訳されている。

●訳語の統一:
海外ドラマを放送する各局では、字幕版・吹替版の同時放送が増えている。このような場合は必要に応じて両者のニュアンスをそろえる。もちろん、視覚重視の字幕と聴覚重視の吹替版とでは根本的に作り方が違うため、完全に一致させることはできない。このため、いかに両者の特徴をふまえ、訳語に統一感を持たせるかも初回翻訳のポイントとなる。翻訳者は字幕版・吹替版の付き合わせ※1)をもとに、必要に応じて代案を提出し、ニュアンスの統一に努める。

※1)字幕版・吹替版の付き合わせ:
字幕版・吹替版の訳文にニュアンスや訳出ポイントのズレがないか、制作担当者が全てのセリフをチェックする。さらに洗い出された相違点について演出家や放送局の担当者が確認する。

【番外編】
第1話に限らず、海外ドラマ翻訳には以下のようなポイントもある。

●兄弟/姉妹の関係:
海外ドラマの翻訳で悩ましいのが“brother”や“sister”の処理。20100929_03_4 なぜか北米のドラマでは年上・年下の記述がないことがある。“brother”“sister”だけでは兄弟・姉妹の区別がつかないため、出てきたときは要注意。海外ドラマでは忘れたころに、兄弟・姉妹が登場する場合があるのだ。
『救命医ハンク』のローソン兄弟のように区別できれば問題ない。しかし対象となる肉親が映像に現れないときは「兄弟/姉妹」のほか、文脈によっては「家族/身内」などボカすこともある。

●展開と構成:
海外ドラマには作品特有の展開がある。リアルな夢と現実が登場する『ミディアム』、過去と現在、未来が交錯する『LOST』、キャッチーな音楽にのせて迷宮事件を描く『コールドケース』などパターンはさまざまだ。
『救命医ハンク』の初回はハンクが失業し、コンシェルジュ・ドクターとなるまでが描かれている。一方、第2話以降は主な登場人物たちと患者の人間模ドラマが中心だ。このように作品特有のパターンを把握するのも、ドラマ翻訳のポイントだ。

●サブタイトル案:
海外ドラマに欠かせないのがエピソード毎のサブタイトル。実は放送局の担当者や演出家・制作担当者のほか、翻訳者も考えている。視聴者の興味を惹くべきサブタイトルは、なかなか難しい。エピソード数が増えるごとに、使える言葉が減るのも悩みどころ。

いかがでしたか?
ようやく猛暑が去り、いよいよ秋本番です。海外ドラマの世界でも秋のラインナップが出そろいました。今年は『ナース・ジャッキー』『私はラブ・リーガル』『ウォーキング・デッド』『グッド・ワイフ』『ホームタウン ~僕らの再会~』といった話題作・注目作が登場します。
いろいろと書き連ねましたが「初回翻訳が難しい」のは翻訳者の事情。初回放送からシーズンラストまで、字幕版・吹替版ともにお楽しみいただけることこそ、映像翻訳者の願いです。

【秋の注目ラインナップ】
●『ナース・ジャッキー(WOWOW)
ニューヨークの病院に勤務するベテラン看護師ジャッキーを描いた、ちょっと型破りな医療ドラマ。
ジャッキーは仕事の合間に鎮静剤を打ち、病院内で不倫をするという、ある意味とんでもない看護師。そんな「白衣の天使」とは程遠い彼女が、アクの強い人々を相手に奮闘する。
主演はイーディ・ファルコ。そしてピーター・ファシネリ、グロリア・アカライタス、イヴ・ベスト、ドミニク・フムザが脇を固める。10月9日(土)よる11:50スタート。

●『私はラブ・リーガル(WOWOW)
知的でぽっちゃり体型の弁護士ジェーンとブロンド美女のモデル、デビー。別々の場所にいた2人は、偶然にも同じ日に命を落とす。しかし死にきれないデビーは強引に地上へ戻り、気づけばジェーンの体に入っている。
「他者の体に別人の心が宿る」という、日本でもお馴染みの設定を軸に法廷ドラマが展開。ブルック・エリオット主演、ブルック・ドーセイ、マーガレット・チョー、ジャクソン・ハースト、ケイト・レヴァリングほか出演。10月12日(火)よる11:00スタート。

●『ウォーキング・デッド(FOX ムービー)
今年7月、サンディエゴのコミコンで予告編が流れ、期待の高まる『ウォーキング・デッド』。本国アメリカで10月31日放送の話題作が早くも日本に上陸! 大人気のアメコミをもとに人類対ゾンビの闘いを描いたサバイバル・ホラー。
主演はアンドリュー・リンカーン。またジェフリー・デマン、ブランドン・ラウス、サラ・ウェイン・キャリーズといった豪華キャストに加え、カルト・ムービー「処刑人」シリーズのノーマン・リーダスも出演。プレミア放送は11月5日(金)午前1:00より。11月7日よる8:00スタート。

 

■『救命医ハンク セレブ診療ファイル
【放送】WOWOW
【吹替版】毎週火曜 23:00~
【字幕版】毎週土曜 11:00~
(c) 2009 Open 4 Business Productions, LLC. All Rights Reserved.

 

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ライタープロフィール

YOOSEKU(ヨーセク)

YOOSEKU(ヨーセク)
映像翻訳者兼ライター。ドラマや映画の字幕・吹替翻訳のほか、海外ドラマ関連の執筆を手がける。好きな海外ドラマは『LOST』と『ミディアム』。三度の飯と海外ドラマ、独立系映画をこよなく愛する。『ミディアム』と『救命医ハンク』の公式ブログを担当。

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