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2010.03.31

『フラッシュフォワード』『The Pacific』…ポスターから見えてくる、作品の面白さ、製作者たちのこだわり

あっという間にアワードシーズンが過ぎ去った。12月~3月頃のこの時期は毎年、ロサンゼルスの街中には映画の看板が多く見られるようになる。それらの看板には、「アカデミー賞、4部門ノミネート!」といった景気のいい言葉が踊る。映画界にとって一番のPRの時だ。同様に、テレビドラマが新たにスタートする季節にも、街中に人気シリーズや新作の宣伝看板が溢れるようになる。今回は、そのポスターから読み取れるアピール戦略について語ってみたい。

まず、最初の写真を見てほしい。
今年のアカデミー賞で勝利を収めたキャスリン・ビグロー監督の『ハートロッカー』?
2005年に話題となったクリント・イーストウッド監督の『父親たちの星条旗』?
いや、実はこれはテレビドラマの宣伝用ポスターの一部。
今、ロサンゼルスの街中で最も目に飛びこんでくるのがこのデザインだ。
HBO共同製作/放送の『ザ・パシフィック(The Pacific)』(日本ではWOWOWでこの夏放送予定)。
『バンド・オブ・ブラザース』を製作したスティーブン・スピルバーグとトム・ハンクスが、太平洋戦争の米海兵隊の闘いを描いた全10話からなるシリーズで、制作費になんと約1億5000万ドル(130億円)をかけた超大作である。
3月14日からスタートしたこのシリーズ、インターネットなどで日本からも予告篇などが観られるが、さすがスピルバーグ氏のプロデュースだけあって、戦闘シーンの映像は『父親たち~』や『硫黄島からの手紙』などの映画と同等のクオリティで迫って来る。
『バンド~』のファンにはもちろん必見だが、兵士たちや家族の人間ドラマが描かれるこの作品には『FRINGE/フリンジ』のアナ・トーヴらも登場するので注目してほしい。
このシリーズは基本的にアメリカ海兵隊員たちの心象を描いているので、特に主立った日本人の登場人物はいない。しかし硫黄島戦や沖縄戦も描かれるので、日本の視聴者にとっても興味深いものになるだろう。

Pacific2_2
ロサンゼルスではこういった映画やテレビの宣伝ポスターが日頃から見られる。
バス停や、バスそのもののボディの側面、店のウインドウなど、街のあらゆるところに宣伝ポスターが張り巡らされる。
圧巻なのは、大きなビルまでが作品の宣伝に利用されていることだ。
車でフリーウェイを走っていると、運転手の目線に、ビル全体を覆う大型ポスターがドーン!!と飛び込んできたりする。車社会であるアメリカでは、高速道路を走っていてもドラマの新シーズンの放送日などを意識させられるのだ。

この宣伝のダイナミックさが、ハリウッドを映画やテレビの街だと体感させてくれる1つの要因といってもいい。
これだけの宣伝展開をするには、広告費に非常に大きな金額がかけられているはずである。
それほどの予算を注ぎ込むのであれば、当然、これらの広告によって大きな効果が得られなければ意味がない。だからこそ、ハリウッドはパッケージ(ポスターやDVDのケースなどに使われる図柄)にも入念にこだわる。

もう一度『ザ・パシフィック』のポスターを見ていただこう。
一見このデザインは、メジャー映画のものとさえ見間違う。
兵士達が海岸から上陸する姿が、写真か、あるいは写実的な絵画のようにも映るタッチで、
臨場感溢れる構図にまとめられている。
これなら、作品に興味のない人でも思わず目をとめる。
戦争叙情詩を好んで観る人なら、「このポスター、欲しいな…」と思う人さえいるかもしれない。
そう、そこがポイントだ!!

ハリウッドで製作される作品群のポスターは、(非常にくだらないB級C級作品はもちろん除く)部屋に飾ってインテリアにしても鑑賞に堪え得るレベルのデザインが施されている。
現に、この街には映画やテレビファンためのコレクターズショップがあちこちにあり、観光客などがこぞって買って帰る。大体1枚15~20ドル(1300円~1800円程度)で購入できる。デザインセンスにそれだけの価値があるということだ。
映画はもちろんだが、最近では、看板を見ても一瞬では映画のそれと見分けがつかないほどにテレビドラマのポスターデザインも洗練されている。
一目見て、「観たい!」「惹かれる!」と思わすデザイン。
視覚に訴えるために、最善の図柄を生み出すべく、クリエーターたちは時間とお金をここに投資しているのだ。
全く別の手法を見てみよう!

Flashforward1

この写真は、やはり昨年9月にスタートした話題作、ABC製作の『フラッシュフォワード』(日本ではAXNで今夏放送決定)の大看板だ。第9話「Believe」のオーディションを受けに行った際に、ディズニー/ABCスタジオの壁面に掲げてあるのをパチリ!と撮ってきたものだ。
ここには、俳優の姿は描かれてはいない。
あるのは“FLASHFORWARD”の番組名と、「What did you see?(あなたは何を見たのか?)」というキャッチコピー、そして水平線に輝く太陽だけだ。
街で何度も目にした『フラッシュフォワード』のポスターや看板はほぼ100%に近いくらい、この“文字だけ”のデザインだった。
主演に『恋に落ちたシェイクスピア』のジョセフ・ファインズや『スター・トレック』のジョン・チョーといったスターを配しながらも、そのネームバリューに頼る宣伝手法はとっていない。
つまり、俳優の人気ではなく、プロットの面白さに製作者側が絶対の自信を持っている、
ということがこの看板から見て取れる。しかも絶対的な秘密主義だということも読み取れる。なにしろこの看板には、“FLASHFORWARD”(フラッシュバックの逆の意。過去を回想するのでなく、先が見える、ということ)の文字、そして、何を見てしまったの!?という質問しか情報がないのだから。
『フラッシュフォワード』のクリエーターは、『バットマン・ビギンズ』と『ダークナイト』で共同脚本を手がけた鬼才デイビッド・S・ゴイヤーだ。彼がこのプロジェクトを率いている。構想は、脚本化のストライキでハリウッドが停滞した2007年の秋くらいからで、この頃から準備を初めて練りに練った企画なのだ。面白くならないわけがない。
絶対の自信があるからこそ、この“文字だけ”の看板で勝負ができるのだ。
さてもう1つ、非常に興味深い、1本の映画のポスターを見ていただこう。

Photo

昨年アメリカで公開された『NINJA ASSASSIN』という作品だ。
プロデューサーは『スピードレーサー』のウォシャウスキー兄弟。主演は韓国の歌手 Rain (ピ) が務めている。
彼はこの映画に向けて、想像を絶するような肉体&スタントトレーニングをこなした。
アジア人として、ハリウッド映画の中で単独で主演を務めるために、凄まじい覚悟で挑んだことが彼のアクションの訓練を見てみると非常によくわかる。
もう一度、劇場ポスターに目を戻して欲しい。
主演の彼の顔が半分切られた形になっている。
Rain (ピ) が主演であるということがポスターではわからないのだ。
しかもこのポスターはいわゆる“ティーザー・ポスター”ではない。
ティーザーとは、映画の公開のかなり前から観客の心をくすぐるように、情報を小出しにするデザインで、よく俳優や人気キャラクターの後ろ姿だけを見せていたりするものだ。
この『NINJA ASSASSIN』のデザインは、アメリカ公開直前のもの。つまり、宣伝用の最終デザインだ。
主人公の顔の上半分が意図的に切られたポスターは、過去、少なくとも筆者の記憶にはない。
では、なぜこういう形になったのか?
ここには、アメリカの市場の人種の割合がどう売り上げに結びつくか?その戦略が読み取れる。つまり製作サイドはこう考えたのだろう。
主人公がアジア人だとわかってしまうと、アジア人の観客(米国人口の4%)しか劇場に足を運ばない。ならば、そこはあからさまには見せずに、“ニンジャ”というまだまだ人気のあるコンテンツと題名そのもので、アクション好きな一般観客を惹き付けよう、と。
血の滲むような、ハイレベルのスタントの練習を、韓国のスターがここまでやり遂げたのに、その主演の人物の顔を見せないのは、あまりに酷である。“忍者”だから顔を隠そう、というシャレではない。
事実、韓国版(国際版)の Rain (ピ) のポスターは、はるかにカッコよく、「観たい!」と感じさせてくれるデザインなのだ。
ハリウッドで、アジア人が置かれている環境は、これほどまでに厳しい…。
脱線してしまったが、話を戻そう。

今後皆さんが TSUTAYA や VIRGIN MEGA STORE などの販売店や、DVDレンタルのお店に行って、見たい作品を選ぶ時には、いつもと違った視点でパッケージをチェックしてみてほしい。作品によって ”売り方” の違いや思惑がとてもよく透けて見えてくるはずだ。
ただし、海外作品のポスターデザインは、日本の配給会社が日本市場の宣伝用にガラッと変えてしまうことがよくある。本当のもともとのデザインが見たい人は、CDコーナーへ行って輸入版サウンドトラックの音楽CDのパッケージを見てみるか、インターネットで“作品名”と“ポスター”という言葉を英語で検索したほうがいい。

ハリウッドでは、“映画作品やテレビ番組にスターは1人か2人で充分”という公式がまだまだ成り立っている。パッケージも、そのスター中心に芸術面を重視して描かれていることが非常に多い。もしくは『ザ・パシフィック』のようにプロット重視。スターは前面に押し出さないというポスターもよく見られる。
もちろん、群像劇の場合は別だ。『LOST』『HEROES/ヒーローズ』『アントラージュ★オレたちのハリウッド』のようなレギュラー全員が主人公のようなドラマの場合は、当然ポスターにもパッケージにもずらりとレギュラー陣の顔が並ぶのが通例(これらは例外)。
アメリカ、日本、韓国、フランス、香港、どこの作品でもいい、いろいろな作品を眺めてみて、もし“ゲスト出演”“友情出演”“特別出演”の俳優や、主演以外の脇役の俳優の顔まで、ただずらりと全員並んでいるようなパッケージなら、8割は駄作だと思って間違いない。
なぜか?
そこにサプライズがないから。
パッケージを見ただけで、誰がどんな顔をして登場するかがわかってしまうような作品は、製作側に、観客や視聴者を驚かせよう!というこだわりがない、ということを自ずと証明している。著名な顔を並べれば、いろんな人が見てくれる、多くの人にアピールできる、と考えている製作者の意図が見え見えか、もしくは各出演者の所属事務所に気を遣いすぎているか、そのどちらかだろう。そのどちらの理由も、プロット(脚本/構成)の面白さとは何の関係もない。

これからはそんな観点でデザインを見つめてほしい。
深みと見応えのある作品を生むクリエーターなら、
深みと見応えのあるパッケージを生み出すことにも力を注いでいるはずなのだ。

ライタープロフィール

尾崎英二郎

尾崎英二郎
リアリズムを追求する米国の演技手法を日本で学び、NHK『あぐり』でTVデビュー。99年のNYオフ・ブロード ウェイ公演『ザ・ウインズ・オブ・ゴッド』で現地メディア批評家に演技を称賛され、その後アメリカの映画/TV業界を目指す。03年、侍のアクションメン バーとして出演した『ラストサムライ』をきっかけに人脈を広げた。06年に 主要キャストとして日本から抜擢された『硫黄島からの手紙』でハリウッドへの扉をこじ開け、ついに念願の本格渡米を実現。
初めての米TVシリーズ出演となった『HEROES/ヒーローズ』など自らの体験をもとに、ハリウッドのシステムの凄みを伝える。
尾崎英二郎 オフィシャルサイト
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