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2009.09.07

CM出演は、俳優にとってプラスなのか、マイナスなのか!?

テレビコマーシャルに同時期に何本も出演する女優や女性タレントのことを「CMクイーン」や「CM女王」とよぶのをよく聞く。
何社と契約しているか?
契約額がいくらか?
どれくらい頻繁にテレビや紙媒体の広告でそのタレントの顔を見かけるか?
日本では、これが “人気”もしくは“(稼げる価値としての)実力”を判断する際の大きなバロメーターになっている。

アメリカには「CMクイーン」という言葉はない。
なぜそういう呼び名がないのか、理由は明らかだ。
CM出演数はこの国では人気の尺度にはなりえない。

アメリカのショウビジネスは、俳優の住み分け(カテゴリー)がハッキリ区別されている。映画俳優/テレビ俳優/舞台俳優/CM俳優/広告モデルといったそれぞれの領域が確立されているのだ。有名だからといって、映画でも舞台でもなんにでも引っ張りだこになることはない。それぞれのフィールドに独自の難しさがあるからだ。
それでもテレビドラマで人気が爆発すると映画界が引っ張ったり、舞台俳優がテレビや映画に出たり、映画スターがテレビドラマの主役を演じたり、シブい脇役俳優をテレビでも映画でもたびたび見かけたり、ということはよくある。
しかしハリウッドの著名なスターたちは、テレビCMや広告に関しては一切出演しないのが基本ラインである。
では、アメリカでは一体テレビCMに誰が出るのか?
無名俳優たち(もしくは有名無名を含むモデルたち)だ。
CM出演による多額の出演料や放送後の印税収入は、無名俳優たちの生活を支える重要な糧である。

アメリカの国民性は、日本が“グループ思考”であったり“流行に敏感”であったりするのとはかなり異なる。
「あの著名人が使っているなら私も買おう!」「あの人が出ていたCMの商品だ!!」とはならない。
アメリカのCMは誰が出演しているかに重点が置かれているのではなく、その商品のよさ/優位性を示すメッセージが巧みに語られる台本ベースのものが多いのだ。シャレも非常に利いている。
“顔” を伝えるのではなく、“言葉” が柱なのだ。
なので、出演者がスターである必要性がない。

というわけで、CMにはほとんど無名の人間が登場する。この領域には当然、著名スターは出たがらない。
では、どんな例外があるのか?

ここ数年、ハリウッドのスター女優がテレビCMや広告に顔を出すのをよく目にするようになった。
僕が実際に見たものでは、ダイアン・キートン、ジェイミー・リー・カーティス、ドリュー・バリモア、アンディ・マクダウェルなどなど。
ただし、これらはすべて化粧品のCMもしくは広告だ。
しばらくヒット映画から遠ざかっていても、テレビで存在感が示せる、という効果もある。
さらに、契約金もアメリカはケタ違いだ。

ABC の『アグリー・ベティ』にウィルミナ・スレイター役で出演しているバネッサ・ウイリアムズは、とあるスキンケア商品(日本では真鍋かをりさんの出演でおなじみ)の広告にイメージキャラクターとして継続して登場している。
日本でもバネッサさんの出演部分が流れるこのCMは、おそらく複数年、しかも国際マーケットに向けてのものだが、彼女はこの仕事1本で20億円を手にしたといわれている。
アメリカの俳優にとってCM出演は大きなリスクなのだが、稼ぐ額が10億円単位ともなれば、リスクもリスクとはいえないのだろう。

CBS の『ゴースト~天国からのささやき』の主演メリンダ・ゴードン役で同番組のプロデューサーを務めるジェニファー・ラヴ・ヒューイットも、数年前から下着メーカーのCMに出演しているが、その契約金額は日本人には驚くべきものだろう。
注目すべきは、バネッサ・ウイリアムズにとって、“美”を追求するという印象は、スレイター役のイメージを損なわない。ジェニファー・ラヴ・ヒューイットも、持ち前のプロポーションを武器にし、「まだまだ美しい」という印象を視聴者に対して誇示することに成功していて、その他上記に挙げた女優陣たちも、“美しく、グラマラスな”印象を与えつつ稼ぐという、非常に巧みなビジネスをしていることだ。化粧品、下着、ダイエット商品、栄養食品といった、範疇に限り、アメリカ女優陣のCM参入は進んでいるようだ。

ただし、日本のように食品/酒/金融/殺虫剤/公的ギャンブルなど、ありとあらゆるテレビCMに映画やテレビドラマ俳優が登場するという現象はない。
皆無といっていいのだ。
古くはアーノルド・シュワルツェネガー、マイケル・J・フォックス、最近ではブラッド・ピット、キャメロン・ディアス、トミー・リー・ジョーンズら多くのハリウッドスターが日本のテレビCMに登場しているが、当然、億単位かそれ以上の契約金が動いている。
しかし、同時に絶対に米国本国では見せない、公表しないことが条件として約束されている。
つまり、日本のCMには割り切った勘定で登場しているわけだ。

俳優は(例外はあるが)、有名スポーツ選手のようにスポンサー企業と直接契約を結ぶような性質の職業ではない。
本来、特定企業の商品を宣伝するために生きているのではないのだ。
“アーティスト” として、演技を追求しようとしている者にとっては特にそうである。
この点が、日本とアメリカでは捉え方が大きく異なるようだ。

たとえば、飢餓に苦しむ人々を救うドラマの台本があったとしよう。
あるいはガンに冒され、やせ細っていく映画の役があったとしよう。
この物語の主役の俳優が、普段は公的ギャンブルやファーストフードのCMに出演していたとする。
視聴者/観客としてドラマにのめり込もうとしても、“お金を賭けて興奮している姿”や“ハンバーガーをパクついている姿”がチラつかないだろうか?
たとえば、自分が演じる役の台本中にある場面で「街角の自販機の前でコカコーラを飲み干す」と書かれていたとする。しかし、もし自分がペプシコーラのCMの出演契約期間中だったとしたらどうなるだろう? このシーンは演じられない、ということになる。もしくは自販機と瓶や缶の銘柄を美術部が変更しなければならなくなる。
それよりなにより、元々の台本のイメージをねじ曲げ、損ねてしまう可能性があるのだ。
特定企業の宣伝者、伝道者、広告塔になるということは、
“自由に演じる、表現できる”
という本来あるべき俳優の、アーティストとしての“首”を自ら締めてしまいかねないのだ。

CM、広告に登場することは、(よいイメージを植え付ける戦略が伴っている場合でない限り)それはアーティストの仕事ではない。
それはセールスマン/営業マンの仕事だ。
アメリカのスター俳優がCMに積極的に参画しないのは、演技者としての価値と誇りを保ちたいと、皆考えているからだ。

あらゆる役柄を演じる可能性に向けて、皆、まっさらなイメージでありたいのである。

写真:Kevin Kahn / www.HollywoodNewsWire.net

ライタープロフィール

尾崎英二郎

尾崎英二郎
リアリズムを追求する米国の演技手法を日本で学び、NHK『あぐり』でTVデビュー。99年のNYオフ・ブロード ウェイ公演『ザ・ウインズ・オブ・ゴッド』で現地メディア批評家に演技を称賛され、その後アメリカの映画/TV業界を目指す。03年、侍のアクションメン バーとして出演した『ラストサムライ』をきっかけに人脈を広げた。06年に 主要キャストとして日本から抜擢された『硫黄島からの手紙』でハリウッドへの扉をこじ開け、ついに念願の本格渡米を実現。
初めての米TVシリーズ出演となった『HEROES/ヒーローズ』など自らの体験をもとに、ハリウッドのシステムの凄みを伝える。
尾崎英二郎 オフィシャルサイト
         公認/ファン私設応援サイト

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