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2009.08.24

「心の病」をテレビで啓蒙…アメリカでは「変」が「普通」になった!?

2001年、テキサスの普通の主婦アンドレア・イエイツが、我が子5人を溺死させた事件で、産後精神病(産後鬱病に幻覚や暴力思考などの症状のあるもの)にスポットライトが当たった。産後鬱病は出産後ホルモンのバランスが崩れることが一因といわれているものの、鬱病家系のような遺伝的要因、環境などが複雑に絡んだ疾患だ。精神疾患について無知だった米国民も、イエイツの奇異な行動を何とか理解しようと試みた。日本と同様、米国でも心の病は恥に直結していたので、誰も口にしなかったからだ。
そんな中、鬱病や躁鬱病を初めとする精神衛生を真面目に検証するオプラ・ウィンフリーのトーク番組の貢献は大きいといえる。ちょうど、女性の心や魂を癒すテーマに番組を模様替えしたばかりで、子どもや夫、親などを優先し、自分をお座なりにしてきた女性の啓蒙を目指していた。鬱病を克服した著名人ゲストを招いて、男性より鬱病にかかる可能性の高い女性の教育に力を入れた。
2005年には、ブルック・シールズが産後精神病を患った体験談を『Down Came the Rain: My Journey Through Postpartum Depression』に記し、番組でも発病から回復までを語り、「恥ずかしいことでも何でもないから、おかしいと思ったら、まず医者に診てもらって!」と視聴者に呼びかけた。しかし、抗鬱剤で治療したことを巡って、何の関係もないトム・クルーズとの間で火花が散り脚光を浴びた。世間を騒がせたスターの小競り合いのお陰で、精神疾患について対話が始まり、理解が深まったのは怪我の功名といえるだろう。
2007年5月には、『ザ・ソプラノズ』で皮肉にもメルフィ精神療法医を演じたロレイン・ブラッコが著書『On the Couch』を引っさげて『オプラ』に登場。番組の創作者デビッド・チェースも長年精神療法に通ったこと、登板前にチェースに鬱病を告白したブラッコの撮影中の鬱病との闘い、セラピーと抗鬱剤治療したことなどを明かした。

鬱病や精神疾患体験を記した著名人の自叙伝が次々と出版される中、ここ数年、精神衛生=心の病を取り上げたテレビ番組がやっと市民権を得たように見受ける。先駆けは2007年7月、ケーブルの老舗Lifetime局に登場した『State of Mind』と題する、精神分析セラピスト集団のドラメディ(ドラマ+コメディ)だった。
原作は精神療法医であり執筆業にも多忙なエイミー・ブルームの著書で、ブルームは番組のクリエイター/ライターも務めた。主人公アン・ベローズは結婚や家族の悩み専門の精神科医だが、蓋を開けてみたら、カウンセリングに通って来る患者の何倍も問題を抱えていることが判明する。米国では、心理学や精神科のキャリアを選択する人は、自身が悩みや問題を抱えているというのが一般的見解。その固定観念を面白おかしく描き、「やっぱりねー」と言わせる作品だった。
シーズン1のみで終わってしまったが、ベローズ博士と浮気の現場を押さえられた夫との駆け引きが、結婚に行き詰まった夫婦が持ち込む相談事と重なり、博士自身が結婚とは何かについて熟考し、成長する過程が実に巧みに描かれていた。

『State of Mind』プレミア後、2ヶ月ほどして放送されたHBO局の『Tell Me You Love Me』は、落ち込むほど真面目なドラマだったが、話題になったのはテレビ評論家に「ポルノか?」と言わしめたほどの過激なセックス描写。結婚すべきかどうか迷っている20代の恋人1組と、30代と40代の2組の夫婦が結婚や不妊の悩みを相談するカウンセリング風景と、日常の男女のすれ違いを交差しながら描くドラマだった。
初老のセラピスト自身の別れた夫、現在の恋人なども絡み、4組の世代の異なる男女の私生活が赤裸々に描かれた。シーズン後半、子育てや日常生活に忙しく、心のすれ違いに気が付いたときには、話題も会話もない40代の夫婦に同情し、心を痛めた視聴者も多かった。

プレミア・ケーブル局は加入料で賄う局なので、歴史的にみてもリスクの高い作品を次々に発表してきたが、『Tell Me You Love Me』打ち切り後、話題になったのが、2008年1月に開始された『In Treatment』である。
原作はイスラエルで好評を博した『BeTipul』シリーズで、同作のクリエイターがHBO局向けに手を加えた作品。知る人ぞ知る、地味で動きのない作品は、評論家の間でも賛否両論。しかし、第66回ゴールデングローブのテレビドラマ5部門にノミネートされ、主演男優賞をガブリエル・バーンが受賞、第60回エミー賞では2部門4賞にノミネートされ、助演女優賞をダイアン・ウィーストが受賞したことから、一般視聴者が『In Treatment』ってどんな番組だろう?と興味を抱き始めた。
ドラマは、53歳の精神療法医ポール・ウェストンが、毎週患者と向き合うカウンセリング風景と、ウェストン自身が師と仰ぐ精神療法医ジーナとの私的セラピー風景のみで綴られていく。ジーナとの対話からウェストン自身がどのような悩みを抱えているのかも明らかになる。他人のカウンセリング風景など、何が面白いのだろう?と精神分析体験者は思ったに違いない。が、そこはテレビドラマ。現実にはご法度とされている、助言や忠告がウェストンの口からポンポン飛び出すことや、患者ローラの誘惑に負け離婚騒動に繋がった苦い体験など、見せ場はそれなりに組み込まれている。
さらに、患者達の悩みを我が身に振り返ると、どの患者にも共通点を見出し、「外見は違っても、人間は根本的に同じなんだ」と悟る。ウェストンは解決策を提供する権威ではなく、同様の悩みや問題、心痛を抱えているのだと思わせることが本作の主旨なのだろう。精神療法医や老人ホーム、学校でイジメのカウンセリングに携わっている「心の病のプロ」にも人気のある作品だ。

『In Treatment』の重い、暗い雰囲気と正反対の番組が、Starz局の『Head Case』。即興コメディというユニークな形態の30分モノで、脚本なし、ゲストは芸能、ファション、音楽界の大物揃いだ。ハリウッドの「狂気の沙汰」を解決しようと試みる臨床心理学医エリザベス・グッド(アレクサンドラ・ウェントワース)が、著名人の悩みに耳を傾けるカウンセリング風景を描く。しかし、ひとりよがりの理屈をこね回し、問題を捏造する、公私混同もはなはだしい医者失格のキャラになっており、狂気の沙汰は先生の方だよ!と言いたくなる。

最近、HBO局より過激といわれるShowtime局の「心の病」作品は、解離性同一性障害(旧称:多重人格障害)を患う主婦を描いた『United States of Tara』。アイデアはスピルバーグ監督、映画『ジュノ』でアカデミー賞脚本賞を受賞したディアブロ・コーディーが書き下ろした。トニー・コレットが演じるタラ・グレッグソンと、夫マックス、10代の子ども2人を描いたドラメディだ。
タラは、何かをきっかけにワイルドな10代の女の子T、1950年代の完璧主婦アリス、ベトナム帰還兵(男性)のバックに変身する。しかし、夫も子どもも慣れっこなので、「また、お母さんが変!」程度の反応しかしないが、家族の心の傷は計り知れない。ドラマでは、3人格がタラに統合するよう薬剤治療をやめての実験中、という設定になっており、カウンセリング風景は少ない。そしてシーズン1の終わりには、タラが精神病院に入院してしまう。
本作もドラメディに分類されるようだが、子どもの立場から観ると笑ってなどいられない。夫はタラの障害を知って結婚したが、子どもには親を選ぶ権利も、非難する知恵も、環境を変える力もない。解離性同一性障害のショッキングな症状を描くのみでなく、この障害を患う人間に親が務まるのかを探ってほしい。

5月末、春の新番組としてFOX局に登場した『Mental』(日本でも放送開始)は、同局の『HOUSE』と同様、謎解きに燃える精神科医ジャック・ギャラガーを描いた医療ミステリードラマ。
心の病を薬漬けにすることを嫌い、患者の言い分や行動、過去をじっくり観察し、画期的な社会復帰案を編み出していくギャラガー博士に、思わず声援を送りたくなる。「心の病」への前代未聞の理解と温かさは、クリエイターであるデボラ・ジョイ・ラヴァインの私的体験の賜物だ。躁鬱病の息子の精神科医を探す飽くなき闘いから得た知恵が、ギャラガー博士なる理想を生み出した。
「これまで、暴力沙汰や被害妄想が引き起こす殺人事件などを描くことで、視聴者を恐怖に陥れるホラー的ドラマばかりでした。本作は、温かく見守ってくれる先生もいるから、希望を捨てないで!がメッセージ」と、ラヴァインは創作の動機を語ってくれた。そして、『Mental』は元々、ケーブルTNT局の依頼だったと、興味深い事実も明かしてくれた。ケーブル好みの「ビジョン」を感じ取ったのは図星だった。『HOUSE』のハウス医師は、謎解きのみに燃え、患者は無下にする偏屈親爺だが、ギャラガーは患者への感情移入もいとわず、精神疾患患者と社会を繋ぐ架け橋になることに燃える点が、最大の相違点だ。

ラヴァインにインタビューした際、心の病への理解が深まっているかどうか聞いた。「この10年ほどで露出度が高まりましたが、理解度はまだまだ」との答え。『State of Mind』のブルームも、「ストレスを溜め込まない方法として、胸の内を曝け出すことが、昔ほど『異常』なことではなくなりました。その分、初対面の人の口からとてつもない話が出て、『そこまで聞きたくないんだけど』と思うことも多々あります。」と述べた。「変」が「普通」になってきたのかもしれない。

折しも、『ダメージ』の泣く子も黙る敏腕弁護士パティー・ヒューズ役で、昨年エミー賞最優秀主演女優賞を手にしたグレン・クローズが、以前から密かに支援していたファウンテン・ハウス という非営利団体のスポークスマンとして秋頃にデビューする。
同団体は、ある程度社会復帰できるようになった精神疾患患者に就職を斡旋したり、住まいを探すなど、自立を支える各種サポート体制を提供している。現在、米国民の5%が精神疾患を患っており、4家族に1家族がその影響を受ける。もっとも「精神疾患」といっても、度合いはピンからキリまであり、社会で生活できる軽症から、入院を迫られる人まで多種多様。身内に躁鬱病と統合失調症患者を抱えるクローズは、ファウンテン・ハウスのスポークスマンとして、3大精神疾患(鬱病、躁鬱病、統合失調症)への理解を深める全米キャンペーンに出演するが、具体的内容はまだ発表されていない。
「私自身が『変』と思われる危険性はあるけど、敢えて引き受けたの」と発言。コンゴ救済に家族を引っ張って行った、今は亡き外科医の父親の血を受け継いでいるようで、「心の病」に苦しむ人や身内が感じる絶望と孤立感をやわらげることができたら、とボランティアを買って出た。マイケル・J・フォックスが「パーキンソン氏病」の顔になったように、クローズの顔で心の病への偏見が崩れていけばしめたものだ!

昨年のエミー賞授賞式のオープニングで、テレビの威力を最大限に活用して米国民を啓蒙するオプラ・ウィンフリーは「テレビほど、人と人を繋ぐ媒体は他にはない」と賞賛した。TVドラマやトーク番組で「心の病」が取り上げられ、疎外感を感じながら人知れず苦しんでいた人達に希望を与えることができれば、テレビという媒体の使命を果たしたことになるだろう。「苦しんでいるのは私だけではない!」と助けを求めたり、仲間を探すことから、癒しが始まるからだ。

 

メンタル:癒しのカルテ』(全13話)
【放送】FOX
【放送日時】毎週(火)22:00-23:00
【リピート】毎週(土)9:00-10:00 (日)13:00-14:00 (日)27:00-28:00,(月)
©Andrew Southam.

ライタープロフィール

Meg Mimura

Meg Mimura
Television Critics Association (TCA)プレスツアーに会員として参加する唯一の日本人。ATAS会員。心の糸に触れた作品、目からウロコを体験させてくれる放送作家、元気をくれる俳 優等を紹介するのが生き甲斐のテレビ評論家。テレビのメッカでテレビへの熱い想いと畏敬の念を燃やし、「わくわく、いきいき、にこにこ」と生きています。 最新のモットー「Leap! And the net will appear.」は『名探偵モンク』から学びました。

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