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2009.02.02

変遷を遂げるアメリカのテレビ事情~地上波とケーブル局の関係

08年の第60回エミー賞争奪戦で、コメディー・シリーズ部門はNBCABCが健闘したが、ドラマ・シリーズの大多数のカテゴリーをベーシック・ケーブルの新番組に持って行かれたことは記憶に新しい。『ダメージ』と『Mad Men』が作品賞にノミネートされたのは、エミーの60年の歴史上初の快挙だった上、『Mad Men』が最優秀ドラマ賞に輝いてしまったから大変! これまで、放送基準も視聴者層/数も異なる地上波とケーブル局の作品は、別々に選考、審査、表彰するべきだとの意見が根強かっただけに、米国テレビ科学技術アカデミー(ATAS)の課題は大きくなるばかりだ。
ATASはエミー授賞式の放送権を売ることで成り立っているので、今後エミー賞候補がケーブルの番組に偏れば偏るほど、授賞式の視聴率が低迷=放送権を叩かれるので運営費が減少することになる。視聴者は好きな作品や俳優が画面に登場しなければ観ないので、独立系映画が受賞することが多くなったアカデミー賞授賞式の視聴率が下がっているのと同じ現象が起こる。選考方法を変えるか、運営費の減少に甘んじるか、ATASのジレンマは計りしれない。
つまり、昨年のベーシック・ケーブルの快挙は、テレビ業界が今大きく変わりつつあることを示唆している。かつてはケーブルに飲み込まれるのではないかと懸念された地上波局だが、昨今ほとんどのケーブル局が地上波局の傘下に収まり、大企業の一部門として共存を試みているのが現状だ。

ここでアメリカのテレビ事情について少し解説をしよう。
地上波局は、現在、ABC、CBSCWFOX、NBCの5局。以前はテレビを購入して電源を差し込めば無料で受信できたが、今年2月から開始のデジタル放送に切り替わると、アンテナを立てても視聴できなくなる。つまり、地上波局といえども、ケーブル受信料を支払わなければ観られないようになってしまった。これでテレビは無料という概念は完全に消滅してしまう。
ベーシック・ケーブルも、以前はケーブル契約をするだけで観ることができる放送局だったが、受信料の値上げと共に、面白い番組を放送する人気のある局はどんどん最低料金で観られるパッケージから外される傾向にある。ベーシック・ケーブルは、地上波とプレミア・ケーブルとの中間に位置し、広告料金+受信料で成り立っている。全米で300局程存在しているが、平均月額60ドルほどの受信料を支払っている世帯で視聴できるのは平均100局といわれている。主なベーシック・ケーブル局は、FXTNTUSAAMCLifetimeなど。
プレミア・ケーブルは、1局20ドルほど追加して観られる、広告無しの放送局。受信料で成り立っている。現在、ShowtimeHBOPlayboy Channelなどがあるが、各局がさらに枝分かれしてドキュメンタリー専門局、映画専門局、オリジナルのテレビ番組専門局などを設けている。
当然、放送基準は地上波とケーブルでは大きく異なる。
地上波局は、日本の民間放送連盟の基準と同様、表現上の配慮、特に暴力、犯罪、性描写などに気を付ける必要がある。宗教上使用が禁じられている言葉や、罵倒/差別用語などへの配慮も必要だ。
ただし、言論の自由を重んじる国なので、政府が検閲するのではなく、殊に最近は自主規制(テレビ番組のコンテンツを対象年齢で示す等)と、擁護団体等からの抗議や視聴ボイコットなどでスポンサーを逃す経済的打撃を避ける「配慮」が施されている。
地上波各局には、内容や描写を検閲することのみが仕事の部門があり、脚本から放送に至るまでの工程で何度もチェックを入れる。
一方、狭義の意味の「報道」=一部の決まった視聴者しか観ない、あるいはターゲットが絞られているケーブル局は、ベーシック、プレミアとも放送基準を守る必要はない。
特にプレミア・ケーブルは“何でもあり”。ベーシックはスポンサーがついているので、ある程度の自主規制はするが、地上波局ほどではない。先日参加したプレスツアーでは、「何を書いても、削除されないから楽!」と放送作家が発言していたが、これに対抗する地上波局は手かせ足かせをつけて走れ!と言われているようなものだ。

毎年2回全米のテレビ評論家が集うTCA(テレビ評論家協会)プレスツアーは従来、内覧会日程をケーブルと地上波局に二分していたが、数年前から境界線がぼやけ始めた。NBC主催日にUSA Network、BravoSciFiが、CBSの日にShowtime(プレミア・ケーブル局)が新番組や継続番組のパネルインタビューを行うようになり、傘下のケーブル局の番組関係者が地上波局の大規模なパーティーに出席するようになった。最近は、評論家やジャーナリスト用ホームページも地上波局に統合され、「へー、あのケーブル局はNBC系列だったのか?」と新たな発見が頻繁になった。
さらに、昨夏は、テレビの歴史が始まって以来初めて、地上波局とケーブル局が同じ割合で、07〜08年シーズンのDVD発売や夏以降に始まる新番組や再開される継続番組のコマーシャルが流れた。これまでにも、視聴率がとれない時間枠や新番組で埋める余裕のない土曜日に、USA Networkの看板番組『名探偵モンク』をNBCで放送したり、CBSが過激な『デクスター~警察官は殺人鬼』を地上波基準に編集して放送した例はあるし、BRAVOの人気番組『クイア・アイ ♂♀ ゲイ5のダサ男改造計画』がヒットした年にNBCでプロモ用トレーラーが流れたこともあった。
ケーブルで地上波局の番組のプロモーションを観たのは、08年が初めてだった。時々、「あれ?ケーブルを観ていたはずなのに、いつの間に地上波に切り替わったの?」と戸惑ったことさえあった。昨夏ほどクロス・プロモーションが盛んに行われた例は過去にない。

最後に、地上波局とケーブル局共存の今後を示唆する面白いケースをご紹介したい。06年、NBCが秋の新番組として放送した『Friday Night Lights (FNL)』。テキサスの田舎町で繰り広げられる家族ドラマで、町中が夢と希望を託す地元高校のアメフトチームのコーチと選手を取り巻くムラ社会文化が描かれた秀作だ。アメリカ放送界で最も権威あるピーボディー賞を受賞、TCAからは06年の最優秀新番組など数々の賞を獲得した。視聴率低迷を理由にNBCが早々に打ち切るのを阻止しようと運動した評論家も多い。
何とかシーズン2に漕ぎ着けて15話を完了したものの、シーズン3は危ぶまれていた。ところが、08年7月のプレスツアーで衛星放送DirecTV社がNBCと制作を折半して、継続すると発表があった。DirecTV社はオリジナル番組を探していたが、企画から始めるより既に実績のある作品が条件だったため、業界から絶賛される理想的な縁組みとなった。NBCで継続するには視聴率が低過ぎるが、制作費を折半することで、地上波局で秀作の誉れ高い番組の優先放送権を獲得したDirecTV。101 Networkのオリジナル番組第一号として、昨年10月から放送が開始された。ただし、DirecTVに加入していない『FNL』ファンは、09年1月までお預けを食うことになった。年間の制作本数は13話に半減したため、スタッフライターをカット、制作費も1話につき30万ドル削減に甘んずることになったものの、NBCから永久に葬り去られるよりは増しと解釈するべきなのだろう。

こうして様々な変遷を分析していくと、地上波局は由緒ある老舗デパート、ケーブル局はブティックに例えればわかりやすい。一般大衆を対象にしているデパートでは売れ行きが悪くても、顧客の好みが明確に定義されたブティックで渾身込めて丁寧に縫い上げた限定のドレスを売るようなものだ。
実際、ケーブル局で制作される作品は『FNL』の例でも述べたが、年間13話と地上波局(最近の平均は年間22~23話)の約半分ほどで、質の高さは古くは『名探偵モンク』『クローザー』、最近では『ダメージ』『Mad Men』がよい例だ。『Mad Men』のクリエイター、マシュー・ワイナーは「AMCから『何もかも任せるからやってくれ』と言われて、断るわけがない」とビジョンを貫く自由を与えてくれたAMCに感謝しているし、『ダメージ』でエミー賞主演女優賞を手にしたグレン・クローズもこの仕事を受けた時以来、「最近、秀作はテレビに集まっている」と絶賛し、ケーブル局の制作はビジョンがぶれないことが鍵だと発言している。今後、デパートからブティックへの移転が増えると予想する。

ちなみに、11月に打ち切られてしまった小粒のダイアモンドのような癒し系ドラマ『Eli Stone』を、一癖も二癖もあるユニークなキャラが主人公の作品が得意なUSA Networkに移転させるのが私の初春の抱負である。

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©2007 Sony Pictures Television Inc. and Bluebush Productions,LLC. All Rights Reserved.

ライタープロフィール

Meg Mimura

Meg Mimura
Television Critics Association (TCA)プレスツアーに会員として参加する唯一の日本人。ATAS会員。心の糸に触れた作品、目からウロコを体験させてくれる放送作家、元気をくれる俳優等を紹介するのが生き甲斐のテレビ評論家。テレビのメッカでテレビへの熱い想いと畏敬の念を燃やし、「わくわく、いきいき、にこにこ」と生きています。最新のモットー「Leap! And the net will appear.」は『名探偵モンク』から学びました。

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