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2009.02.23

アワード・シーズン! 視聴率の罠と、賞の重み

作品賞が『スラムドッグ$ミリオネア』に決まり、きらびやかなアカデミー賞が幕を閉じた。
アメリカでは、12月上旬から次々とメジャーな賞の発表がスタートし、ゴールデン・グローブ賞を経て、2月のアカデミー賞授賞式までの約2カ月間に亘る戦線を “アワード・シーズン” と呼ぶ。

 

「最近、何観た?『ベンジャミン・バトン』観た?」
「主演男優、誰だと思う?ミッキー・ロークより、やっぱりショーン・ペンでしょ!」
などという話が人々の間で日常的に飛び交う時期である。
そうそう、我らがサイトの『第1回海外ドラマNAVIアワード』はまだまだ投票を受付中だ!!TVシリーズや俳優ファンの皆さんも是非審査員になった気分で投票してみて欲しい。

この季節にロサンゼルスの街を車で走っていると、ビルの上の大きな映画の看板に “◯◯賞何部門ノミネート”と宣伝してあるのがいくつも目に飛び込んでくる。
映画やTVファンにとっては、1年で最もときめく時だ。

ノミネーションを受けることや、受賞の実績を残すことは、ショウ・ビジネスとしての意味が非常に大きい。
高い評価を受け、授賞式の模様がTV放映される。この“露出”が多大な宣伝効果を生むことは皆さんご存知だろう。
映画は興行成績が伸び、TVドラマシリーズは視聴率が上がる。
そして何より、DVDの売れ行きに非常に大きなインパクトを与えるのだ。
アカデミー賞やゴールデン・グローブ賞なら、その“露出”が世界に行き渡るのだから、関係各社が血眼になるのも当然だ。

しかし“賞”の存在は、製作者にとって、受賞者にとって、いやノミネートされない者にとっても、そしてファンにとっても、ビジネスとは関係のない、とてつもなく重要な役割を担っている。
仮に、権威のある賞が存在しなかったとしたら、評価は何で計られるだろうか?
興行成績、視聴率、関連グッズの売れ行き…それだけになってしまう。
それは言い換えれば、チケットやグッズを買った人の”数”であり、TVの前で番組を観た人の”数”である。

よく、宣伝やメディアの報道で
「1000万人の観客が涙しました」
「誰々の新譜CDがミリオンセラーに!」
「◯◯主演のドラマ、視聴率20%を記録」
といった触れ込みを聞く。

これは<結果/成績>として素晴らしいが、皆さんが作品を選ぶ時に判断基準にしてしまうのはお勧めしない。

なぜか…?

もし、売れた数で善し悪しを決めることができるなら、
世界で一番良いハンバーガーは、ファーストフード店のハンバーガーで、
日本で一番良い寿司は、回転寿し
ということになってしまう。
“便利さ”、“手軽さ”、そして“安さ”なら一番かもしれない。

でも実際には、
肉汁がしたたり、肉の焼き方まで聞かれるようなハンバーガーや、
ネタとシャリが絶妙に口の中で絡むような本当に旨い寿司が、
世の中には沢山ある。

売り上げが重要なのではない。
その中で、心から満足した人の在る無しが大切なのだ。

特に映画やそれに準ずる映像作品は、<光と音の総合芸術>と呼ばれるものであり、つまりアーティストたちの生み出すものである点を考慮すれば、売り上げだけでは決して評価を判断できない。
観客動員と視聴率だけを気にしている製作者や出演者は、”売れるもの”を盲目的に追求してしまうだろう。

この底なしの沼に、罠に、歯止めをかけるものは、唯一、
“良識”である。

この“良識”をもって功績を讃えようというのが、真に権威ある賞の存在なのだ。

もちろん賞が全てではない。でも、この賞の存在によって、
我々作る側の人間は“いいもの”を生むことを追求するようになる。
より深く怒らせ、涙させ、笑わせ、感動させるものを作ろうと目指すようになるのだ。
それがさらなる良識を育む土壌を支えることになる、それが大切だ。

アメリカには、数々の賞がある。
トニー賞(演劇界)、やエミー賞(TV作品)といった知名度の高い賞から、ハリウッド・メイクアップアーティスト&ヘアスタイリスト組合賞や、ワールド・スタント・アワードという、スタントコーディネーターやスタントマンたちの賞、未来のフィルムメーカーたちの短編映画の賞まで、ほぼ全ての分野で存在する。

我々俳優にもSAG賞(Screen Actors Guild Awards)という俳優組合の賞がある。
今年も賞シーズン真っ直中の1月25日に発表され、全米にTV中継された。
俳優たちにより、その年の優れた功績を残した俳優が選ばれる賞であり、映画部門だけでなく、TVシリーズ部門がしっかりと設けられているのが特徴だ。
僕も組合員の権利を行使して各部門に1票を投じた。

SAG受賞TV部門の受賞者たちの名前を見てみると…
主演男優賞(ドラマ)を受賞した『Dr.HOUSE』のヒュー・ローリー、
主演女優賞(ドラマ)『ブラザーズ&シスターズ』のサリー・フィールド、
主演男優賞(コメディー)『30Rock』のアレック・ボールドウィン、
TV映画およびミニ・シリーズ男優賞/女優賞を獲得した「John Adams」のポール・ジアマッティとローラ・リニー等…。

選ばれているのが、ティーンの人気タレントではないことが一目瞭然だ。
どの人も、絶対的な存在感と円熟した味の演技を見せられる人ばかり。
安くて、お手軽に買えるハンバーガーではない。

“作品賞”に匹敵するドラマ・シリーズ・アンサンブル(キャスト)賞にはケーブル局AMCが製作している『Mad Men』が輝いたが、これもまた、必ずしも視聴率トップという番組ではない。
あくまで、優秀だと思えるドラマ番組を、我々は(もちろん好みはそれぞれ異なるが)自分たちの良識をもって投票するのである。

これら様々な分野の賞は、地味で人目にあまり触れなかった作品群に、一気に脚光を当てる効果もある。

彼らがこの受賞やノミネートで手に入れるものは、
人気や視聴率だけでは決してない。

最も大事なものは…
名誉と誇りと、人々からの敬意である。

これがあるから、受けた人はさらに向上しようとし、
対象とならなかった者も
「いつかあの場所に立ちたい」
と技を磨く努力をするのだ。

良識が支える名誉と誇りの重み。
これがある世界と無い世界、どちらが素晴らしい作品を生み続けるかは明らかだ。

■FOXの兄弟チャンネルがSAG賞関連番組オンエア!
FOXムービーでのSAGの放送直前に、FOXではSAGに参加する俳優達のインタビューを撮影したレッド・カーペットの模様を、さらに、FOXライフではSAGに参加した俳優のファッション・チェックを放送します。

【オンエア情報】
4月5日(日)
16:00~17:00 スクリーン・アクターズ・ギルド賞 ファッション・チェック on FOXライフ
17:00~18:00 スクリーン・アクターズ・ギルド賞 レッド・カーペット on FOX
19:00~20:45 スクリーン・アクターズ・ギルド賞 授賞式 on FOXムービー
(C)1995 Screen Actors Guild TM.

ライタープロフィール

尾崎英二郎

尾崎英二郎
リアリズムを追求する米国の演技手法を日本で学び、NHK『あぐり』でTVデビュー。99年のNYオフ・ブロードウェイ公演『ザ・ウインズ・オブ・ゴッド』で現地メディア批評家に演技を称賛され、その後アメリカの映画/TV業界を目指す。03年、侍のアクションメンバーとして出演した『ラストサムライ』をきっかけに人脈を広げた。06年に 主要キャストとして日本から抜擢された『硫黄島からの手紙』でハリウッドへの扉をこじ開け、ついに念願の本格渡米を実現。
初めての米TVシリーズ出演となった『HEROES/ヒーローズ』など自らの体験をもとに、ハリウッドのシステムの凄みを伝える。
尾崎英二郎 オフィシャルサイト
         公認/ファン私設応援サイト

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コメント

尾崎さんが身をもって経験し、観察しておられることに基づいた率直でマトを射た言葉に、読みながら、とても強くうなずかされました。

>良識が支える名誉と誇りの重み。
>これがある世界と無い世界、どちらが素晴らしい作品を生み続けるかは明らかだ。

激しく同感です。
優れた作品によって観客も成長し、さらなる作品へのこだわりにつながっていく…
そういった妥協をなくしていくような在り方こそ、本当に見たいと思える、また見るべき作品創りにつながっていくのだろうと、ファンのひとりとしてはとしては強く思います。

そうですねぇ。
私自身もしばしばおかす過ちです。
評判や視聴率に左右されるようなこと。
お手軽に済ませること。
本物を追求する目を持ちたいです。
何よりも、現場の俳優である尾崎さんの言葉だけに
映画の未来に期待できることが嬉しいです。

フランキンさん、祥さん、

コラムに共感を覚えて下さってありがとうございます。

なかなか ”いい作品” を判断できる眼を持つということは難しいものですよね。
これは作品ファンや一般の方々に限らず、僕ら作り手側にも言える大きな課題なんです。

作り手の多くの人たちも、やはり ”派手で、見映えがして、売れるもの” を追求しがちになってしまうのもなんです。

先日、日本作品の『おくりびと』がアカデミー賞の外国作品賞を受賞しましたね。
僕も非常に興奮し、温かな感動を覚えながらその中継を観ていました。

日本のメディアも一斉にこの話題に湧きました。
日常のお喋りでも、この話題に大いに花が咲いたことでしょう。

しかしこの快挙の嬉しさを感じると同時に、
これほど国民が ”獲った!嬉しい!素晴らしい!” と感動を覚え、沸き立つ賞なのであればこそ、
僕ら(日本の作り手と観客)は、日本の<実写映画>がなぜこの賞に、実に50年を超える歳月の間、手が届かなかったのか?
そのことに目を向けて考える必要があるでしょう。

ただ賞を獲得したから、話題に流されて劇場に行くのではなく、
『おくりびと』や、近年同賞にノミネートされた『たそがれ清兵衛』のような作品の、題材/脚本/構成/演技など、どのポイントが、どのように外国でも評価されたのかを真摯に懸命に見極めながら、作品を楽しむことが、
”この次” につながると思っています。

”観客” というものは日本にだけではなく、世界中にいるんですから。
本当にいいものを生み出せば、世界中の市場に受け皿があるはず。

しかし、それにしても、ある1国の賞が、インドに日本にイギリスにと、これほどまでに影響を及ぼすなんて凄まじいですね。
手にした時に、心から喜びが湧き上がる賞…
その存在は素敵で、羨ましいものです。

そういう土壌を培っていくために、これからもこのコラムを書き続けていきます。

英二郎

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» 尾崎英二郎さんのコラムに激しくうなずいた。 [フランキンのノアノアな風をうけて FM熱海・湯河原]
映画好きのフランキンですが、決して映画創りの現場を知っているわけではなく、クリエイティブな作業のひとつひとつについて意見できるような知識があるわけでもありません。ただ自分が見たいと思うような映画が絶えず創られて欲しいと願うわがままな映画ファンにすぎません..... [続きを読む]

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