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2007.11.12

新たなジャンル!?イスラム・シットコム

これまでの私のコラムでは、テレビドラマの“メジャーリーグ級”に視点がありましたが、リサーチの仕事をしていると比較的ニッチな作品の情報も入ります。その中で結構これってイケてるんじゃないの?と思うようなものもあってチェックしてみたりするのですが、実際「ヤルじゃん」と思えるような作品もあって、そういう発見があったときはなんとなくニンマリしてしまいます。今回はそういう中から作品を1つ紹介したいと思います。

カナダの国営放送CBCの『Little Mosque on the Prairie』という北米のイスラム・コミュニティを舞台にしたシットコムは、“静かな話題作”のようです。タイトルを見て、『大草原の小さな家』の原題『Little House on the Prairie』を思い浮かべた人も多いのではないかと思いますが、まさにそれを狙ったネーミングでしょう。しかし、パロっているのはタイトルだけ。フォーマットは典型的なファミリー・シットコムという感じです。ただネタは、北米で生活するイスラム教徒(カナダ、米国を合わせて700万人弱ほどらしい)の日常をあくまで軽いお笑いとして仕上げた作品です。

放送開始前から「北米初のイスラム・シットコム」ということでそれなりの前評判がありましたが、放映後もなかなか順調な評判で、第2シーズンが決定されたり、フランス、スイス、フランス語圏のアフリカ諸国、アラブ首長国連邦、フィンランド、トルコ、イスラエルなどでも放送が決まるなどの報道もあってやっぱり「静かな話題作」という状況は続いているようです。

イスラム文化圏には、個人的に住んだ経験もあり、その後もなにかと縁があった私はちょっと気になっていた作品でした。それは、「普通のイスラムの人々」が軽いタッチで表現されているのではないかという期待もありました。もちろんなにが「普通」かについて議論もあるとは思います。たとえば、日本人が外国に出るとみょ~に強調されるステレオタイプなジャパンに違和感を覚えた人は多いのではないかと思います。忍者、侍、芸者、切腹、大日本帝国軍人、男尊女卑のエロ・ジャパニーズ・ビジネスマンなど、「確かに日本のものだけど、外国で強調されすぎ」というような。それは多分イスラム社会にもいえて、どうもテロ、イスラム原理主義、戦争、ハイジャック、誘拐などニュース報道やアクション映画からのイメージが強すぎて、なかなか普通に生活してるイスラム教徒にとっては違和感があるのではないかと思っていました。それだけにお笑いが基本のシットコムで北米のイスラム・コミュニティが表現されることへの興味と期待があったのです。

実際に番組をチェックしてみると、その期待は裏切られず冒頭にあったニンマリ系のうれしい発見でした。たとえば初回はトロントの弁護士だったメインキャラクターがキャリア上の一大決心をし、マーシィという架空の田舎街のイマーム(キリスト教会の牧師、神父のような存在)として赴任するのですが、出発の日空港で弁護士のキャリアを捨てることについて彼の親と電話で口論になり、「自殺行為だってことはわかっているけど、これはアラーの思召しなんだ!」という部分を聞かれて通報され、テロリストの疑いで逮捕、尋問されるという種類のバリエーションがどんどん出ていました。状況のおかしさを笑うシットコムの基本形をしっかり踏まえたイスラムギャグの連発でした。ステレオタイプへの軽いお笑いのジャブによる対抗という感じでしょうか。

「対北米社会」という観点だけでなく、当然同じイスラム教徒の中でも、コンサバとリベラルな人々がいるので、イスラム・コミュニティ内での葛藤なんかも面白可笑しく表現しています。たとえば日本でも学生が厳しい校則による髪の長さ、ズボンやスカートの丈など細かく制限されている中でどうオシャレしたり、自己主張(反抗期の方々を含めた)するかを経験した人々も多いと思いますが、そういう感覚のイスラム版ともいえるような場面を垣間見ることができたりもします。女性の権利に関わる問題や、いろいろな慣習、行事などの中でのイスラム・コミュニティ内部でのドタバタが興味深いし、面白いわけです。

まじめなドラマやドキュメンタリーだったら多少重い問題提起となるようなものも、お笑いのもたらす微妙なバランスによるリアルだけど、軽いタッチという味付けが絶妙。あまり構えずにサラッと見ることができるこの軽さが実はなかなかうまいラインを渡っているんじゃないかと感じさせるわけです。

24』でクロエの元ダンナ役モリス・オブライエンとしてクセのあるキャラクターをイイ味で好演しているカルロ・ロタがメインキャストの1人であることも付け加えておきましょう。ちなみにキャストは、ほとんどがイスラム教徒ではないそうです。もちろんアイデアはZarqa Nawazというパキスタン系カナダ人女性の原作であり、多く彼女の実体験が作品に織り込まれているとのことで北米イスラムコミュニティの描写はなかなかリアルだと思います。

『Little Mosque on the Prairie』は北米のイスラム・シットコムというジャンルを開拓し、仕上がりの軽妙なバランス感覚は「ヤルじゃん」と思わせてくれたわけです。こういう作品が出てくるカナダという国のアート、メディア、エンタメ事情についても結構なかなか興味深いものがあります。日本でこの作品がテレビ放映される日は…など考えてしまう人もいると思いますが、今や「ロングテール」の時代。別にテレビ放映がなくても意思があれば見たい作品は見ることができる時代です(現に私も米国テレビ放映がないにも関わらず、Little Mosqueを見てるわけです)。もし、このコラムを読んで興味が出た方は、ネット検索でチェックしてみてください。

ライタープロフィール

森井 茂樹

森井茂樹
「入魂のリサーチ」を信条とするエンターテインメント、メディアビジネスのリサーチャー。仕事としてテレビ、ラジオ、映画、マンガ、インターネットなど多くの分野をカバーしているが、プライベートでも各国の様々な作品に次々と挑戦している。ポップカルチャー、運動、サウナ、自然、そしておいしい食べ物があれば世界平和が実現すると信じている。日本、中東、ヨーロッパを経験し、現在ニューヨーク在住。

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