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2007.09.25

トークンアジアンをぶっとばせ!

仲良しの美人キャスティングディレクター、アナのオフィスでのこと。コマーシャルのオーディションの最中だった。ビデオカメラを覗き込んでいた彼女、ふと頭をあげて首を捻り一言。
「あんた、コマーシャル向かないわねえ。時間の無駄になるから、今度からあたしのコマーシャルのオーディションには来なくていいわ。」
え? 愕然とする私の反応に気付いた彼女、少し優しげに、
「あのね、コマーシャルの主人公は、あくまで売り物なの。で、買い物の主導権を握っているのは主婦。だから、コマーシャルに出る人は、主婦に好感を持たれないといけないんだけど。あなたは、目があやしいのよ。腹に一物あるって感じ。例えば、OLに見せかけた産業スパイだったとか。こっそり自分の旦那と寝ていたとか。とにかく、主婦の反感を買いそうだから。」
頭はぐるぐる廻った。彼女が正しいとすると、あたしの女優計画が根本的に覆されてしまう。

あたしの女優計画。それは、コマーシャルやトークンアジアン(日本人を含めいわゆる東洋人全般を指す)のちょいちょい役をこなし、演技力をつけ、一歩一歩芝居、テレビ、フィルムの階段を上っていくということだった。なんてことはない、みんな同じことを考えているんですけどね。でも日本と違い、アメリカの売れている俳優はアメリカのコマーシャルには出ない。このごろは、化粧品と契約をする大女優も増えたけど、一昔前まではコマーシャルに出るのは売れない役者か、落ちぶれた役者と決まっていた。だから、新人も狙い易い市場だった。

「ついでに言うと、あんた、テレビのトークンアジアンの役も無理ねえ。東洋人に求めるのは、もっと、地味な感じだけど。あんたの目つき、派手すぎなのよ。あなたが本物の日本人だってことも知ってるわよ。あなたより派手な顔つきの女優だって沢山いるわよ。でも、あなたは、なんて言うか、カメラが捉えるオーラが、きつすぎるのよ。」

確かに、彼女の言うことには思いあたるふしがある。トークンアジアン役の、“日本人観光客”とか、“アジア人の主婦”とか言う役のオーディションに行くと、大概キャスティングディレクターは、顔も上げずにちらりとあたしに一瞥を投げ、「はい、ご苦労様」とか、「あんた本当に日本人?」とか、明らかに興味のなさそうな様子をとる。

とぼとぼとオフィスを出て行くあたしに、アナが陽気に声をかける。
「心配しないで。あやしいキャラのオーディションの時は、一番にあなたに声をかけるから。」

「うーん。確かに、テレビ番組なんて、所詮コマーシャルを売り込む為の客寄せでしかないからなあ。」と、シビアな発言をするのは、エージェントのセス。 とりあえず、あんたの生活は、アーティストのギャラで成り立っているんだから、もう少し口の聞き方気をつけてよ、と注意の一つもしたいもの。が、彼のエージェント根性は、筋金入り。彼の座右の銘は “売れない奴は、アーティストではない。”オフィスにでかでかと掲げてある。
ダイエットをしていたぽっちゃり女優に向かって、「中途半端に痩せたところで、君はヒロイン役は無理だ。太ってデブ役に徹しろ!」と叱咤を飛ばし、彼女を再起不能にしたことで有名になった。
彼はあたしの顔を観察するように眺め、「アナの言う通りに、あやしキャラを中心にしてみよう」

確かに彼らが指摘した通り、あたしには、トークンアジアンといわれる、東洋人その1みたいな役は、どんなちょい役さえもつかなかった。コマーシャルの撮影中、エクストラの役を外されたこともあった。その代わりにあたしに廻って来たのは強いキャラ。元戦争花嫁でド派手なクニコとか、ゴシップ好きなカナとか、死体になっても男にセックスを迫るナナとか、 謎の愛人女とか。魔女と噂されている女の役もあった。が、すべてに共通するのは、頭と体を駆使して、強く生きていけるあやしさだ。

なんとなく納得できない気分でいたとき、
「あんたも、タイプキャストでうんざりしているのね。ひどいわよね。 東洋系の役なんて、アメリカのドラマ全体の5%しかないんだから。カラーブラインドのキャステイング運動、浸透するといいわね。」と、美人女優のT。空手映画のヒロインからデビューして、かれこれ20年以上トークンアジアンの代表として手堅く女優業を続けている。

人種に関係なくキャストを行う、カラーブラインドキャステイング。マイノリティの俳優たちの間で、運動を起こしているのは聞いていた。ということは、日系人の銀行強盗に、インド人のスーパーマン。黒人のヘレンケラーに中国人のカウボーイが登場する日も近いのだろうか?
政治的には正しいことなのだろう。マイノリティ俳優の活動を広げることにもなるだろう。が、しかし。
小首を傾げるあたしの肩を、ぽんぽん、と叩くと、Tは優しそうに笑って撮影に戻って行った。その笑い顔は、控えめで、完璧で、なおかつ印象に残らない、トークンアジアンのイメージにぴったり重なっている。

そう、アメリカでは、人種が役柄のタイプになる。 黒人の男なら悪役タイプ、東洋人は真面目タイプ、ヒスパニックの女は娼婦タイプ、インド系はタクシードライバータイプ。個人のキャラ以上に、人種がその役柄に結びつく。
そんな人種によるタイプキャストが横行しているアメリカの芸能界において、アジア人俳優は非常に不利。何しろ役が少ない。アジア系アメリカ人は、真面目で地味。ドラマ性に欠ける存在だ。そんな現実を反映して、東洋人の役柄は、アメリカのドラマ全体の5%に満たない。

今人気のマシ・オカだってそうだ。トークンアジアンのタイプキャストにぴたりとはまってこその大ブレイク。アメリカ人は、あの子の日本語片言とか、中国語へたとか、なんでベトナムなのに英語でみんな話すの?とか疑問に思わない。彼らにとって、ほんとは国籍はどうでもいい。言葉が片言でも全く関係無し。
で、アジアンオトコの中でも日本人のイメージはというと、目立たず、おたくちっくで、真面目なイメージ。これが中国人になるとマフィア系タイプキャストってのもあるよね。

「テレビ役者は、外見95%、演技力5%」「カメラは嘘をつかない」。とはセスの名言だ。タイプキャストがなんだ。怪しキャラがなんだ。無国籍であろうと、魔女であろうと、役が付いた者の勝ち!
ちゃっかりと鏡に向かって微笑んだあたしの笑顔は、Tと対照的な、ふてぶてしい、人を食ったような笑い顔。
魔女もよし。山賊結構。産業スパイもウェルカム。役さえ付けば終わりよし。結局自分は自分以外の者になることは無理なのだから、それなら開き直ってあやしキャラに徹しよう。そう心に誓ったあたしだった。

ライタープロフィール

大塚肇子

大塚肇子
ハワイのプロダクションにて、企業向けビデオ、コマーシャル、テレビ番組、映画の制作、またライターとしても番組のスクリプトを含め、ビジネス分野からNYライフスタイル紹介といった、日本のメデイア向けの番組制作にかかわる。女優としても、“ピクチャーブライド“をはじめ、アメリカネットワークドラマ、映画、インデペンデント映画に出演。ニューヨークでは、オフブロードウエイの舞台から、フジテレビなど日本のテレビに出演。現在、NY 在住。

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